INSIGHT 02

変わろうとしている途中は、 外から見えない

変わろうとしている途中は、
 外から見えない

ある方が、会社で、管理職に抜擢されました。
その方の評価は、決して、高くはありませんでした。

経営者からは、「感情的な人なんですよ」「あまり、やる気もなく、責任感も、足りないところがあって」と聞いていました。

「本当は、もう少し別の人に任せたかったんですが、人がいなくて」

そういう前提での、抜擢でした。
私は、その方と、初めてお会いしました。

ご挨拶のとき、その方は、私の名刺を、じっと見つめてくださいました。

「こんなこともされているんですね」
少し、興味を持ったような声でした。

私はその瞬間に、「あれ」と思いました。
やる気のない人は、たぶん、私の名刺を、じっとは見ないと思います。
他人の仕事に、興味を持つこともあまりないと思います。

経営者の見ているその方と、私の目の前にいるその方の間に、何か、ずれがあるように感じました。

後日、セッションで、ゆっくりお話を伺いました。

確かに、その方は、感情が表に出やすい方でした。
言葉が強く聞こえる場面も、あるのだろう、と思いました。

ただ、私はその時、「感情的であること」を、責めるようには、お伝えしませんでした。

代わりに、こうお伝えしました。

「感情的になることは、たぶん、相手だけではなく、ご自身を、いちばん消耗させます。今、考えていることで自分の未来が作られるので、もったいないですよ」

その方は、その時、初めて感情的になることの代償を認識された様でした。

そして、「自分の考え方や人への接し方を変えてみたい。管理職として頑張ってみたい」と、ご自身で言われたのです。

それから、その方は、ご自分なりに、試行錯誤を始められました。

「こう言ったら、相手は傷つくだろうか」
「この言い方なら、少しは受け取りやすいかな」
「本当は強く言いたいけれど、どう伝えたら、いいんだろう」

そういう小さな問いが、その方の中で、動き始めていました。

ただ、受け取る側にも、それぞれの受け取り方があります。
その方が一生懸命選んだ言葉でも、相手には、まだ厳しく聞こえる、ということもあったのだと思います。

社内での評価は、残念ながら、すぐには上がりませんでした。

でも、私は知っていました。
その方は、確かに、努力を始めていました。

人は、一朝一夕には、変わりません。

頭で「変わろう」と思った瞬間と、その変化が、声のトーンや表情として外に現れる瞬間との間には、たぶん、何ヶ月もの時間があります。

その間、外から見える姿は、まだ「変わっていない人」のままです。

そして、その時間に、もし周りが「やっぱり、変わらないな」と判断してしまうと、その方の中で動き始めていた小さな意識は、行き場を失います。

人は、信じてもらえた分だけ、すぐに変わるわけではありません。

ただ、信じてもらえない場所では、変わる力そのものを、静かに、失っていきます。

人を育てるということは、たぶん、その人がいま、何に意識を払い始めているかを、見ようとすることです。

外に出ているふるまいだけで、その人を決めない。

そして、現状をありのままに受け止めながら、「ここまでなら、もう少し頑張れそうかな」と思える、小さな課題を、ひとつだけ、丁寧に渡していく。

小さな成功体験を積ませてあげるのです。

ただ、ここで、もうひとつ、大切な視点があります。

そういう関わり方ができる人を、その上の人が、引っ張り上げてくれるかどうか。
管理職に抜擢された人は、迷う時期があります。

うまくいかない時期があります。
評価が一時的に下がることも、あります。

そのとき、その管理職を、もう一段、上から見る人が、「いま、この人の中で、何が動いているか」を、見ようとできるかどうか。
その視点を持つマネジメントが、組織のなかに、いるかどうか。

そこで、人が育つか、育たないかが、決まっていきます。
人を育てる仕事は、たぶん、現場の管理職だけでは、完結しません。

その管理職を、もう一段、上から支える視点があって、はじめて、人は、ゆっくり、育っていきます。

変わろうとしている途中は、外からは見えません。
だからこそ、それを見ようとする目が、現場にも、その上にも、要るのだと思います。

Written by 近藤和歌子

Wingood代表
組織の中にある、まだ言葉になっていない違和感に耳を澄ませる。
対話と関係性を起点に、人材開発・組織開発に携わる。
現場に流れる空気や、小さな変化を大切にしている。