INSIGHT 24

「なぜ、評価しているのに人は動かないのか」

「なぜ、評価しているのに人は動かないのか」

ある企業に、毎月訪問しています。

以前は、部屋に入った瞬間から緊張感がありました。課題が出ると下を向く人が増え、誰かが発言すると場がこわばる。いつも、どこかピリピリした空気が漂っていました。

ところが、先日の訪問は違いました。

画面に課題が映し出されると、全員がモニターを見つめ始めました。そこにあったのは、発言を避けるための沈黙ではありません。一人ひとりが、自分にできることを考えている空気でした。

やがて、「それなら私がやります」「その部分は得意なので引き受けます」と声が上がりました。責任の所在が曖昧な仕事にも、「私がします」と手が挙がります。

終了の声がかかったとき、みんな笑顔でした。

何が違ったのだろう。

人が入れ替わったわけでも、突然技術が上がったわけでもありません。ただ、その場にいる一人ひとりが、互いの力を認め合っているように感じました。誰かの不得意を誰かが補い、誰かの得意を素直に頼る。そのやり取りが自然に起きていたのです。

日常の中にある承認の言葉が、少しずつチームの空気を変えていたのだと思います。

管理職の方から、こんな話を聞くことがあります。

「ちゃんと評価はしているのですが、メンバーのモチベーションが上がっている気がしなくて」

「頑張りは認めているつもりです」「フィードバックもしています」。それでも伝わらないとき、評価と承認が混同されている可能性があります。

評価と承認は、似ているようで別のものです。

評価は、主に組織の基準と結果を照らし合わせるものです。目標を達成できたか、数字に届いたか、どのような成果を残したかを見る。組織を運営するうえで欠かせない、大切なプロセスです。

「今期の売上目標を達成しました」「このプロジェクトで〇〇万円のコストを削減しました」。これは、結果を認める評価の言葉です。

一方、承認は、その人の行動や工夫、判断、姿勢に目を向けます。

「先週の打ち合わせで、あなたが場の空気を見て発言してくれたおかげで、議論がまとまりました」

「誰も気づいていなかった問題に先に気づいてくれました。あの判断がなければ、大きなトラブルになっていたと思います」

数字には表れにくい働きにも気づき、具体的な言葉で返す。それが承認です。

評価が「どのような結果を出したか」を見るものだとすれば、承認は「あなたがしてくれたことを、私は見ています」と伝えることです。

この二つを混同すると、評価はされているのに、本人は「自分の働きを見てもらえていない」と感じることがあります。

人は、認められるためだけに働いているわけではありません。けれども、何をしても気づいてもらえない環境で、力を出し続けることは難しいものです。

結果だけを見られていると感じる職場では、人は失敗を避けるようになります。余計なことをして評価を下げるくらいなら、指示された範囲だけをこなそうとする。新しい提案をするより、黙っていたほうが安全だと考える。

反対に、自分の行動や判断を見てもらえていると感じられる職場では、人は少しずつ自分から動けるようになります。

承認は、やみくもに褒めることでも、相手を持ち上げることでもありません。その人の行動や工夫を、なかったことにしないことです。

「すごいですね」「よく頑張りました」と抽象的に伝えるだけでは、形式的に受け取られることもあります。

大切なのは、実際に見た行動を、タイミングよく具体的に返すことです。

「助かりました」ではなく、「あの場面であなたがすぐに動いてくれたので、予定どおり進みました」。

「よかったです」ではなく、「情報が十分でない中で、あの判断をしたことは適切だったと思います」。

結果だけでなく、工夫や判断、周囲への働きかけにも目を向ける。その積み重ねが、安心して力を出せる土台になります。

冒頭の企業で起きていたのも、まさにこの変化でした。

誰かが誰かの行動に気づき、言葉にして返す。得意なことを認められた人は、その力をチームのために使おうとする。自分の貢献を見てもらえた人は、次の課題にも手を挙げやすくなる。

承認は、モチベーションを一時的に上げるテクニックではありません。人が安心して、自分の力を発揮するための土台をつくるものです。

評価はしている。

では、承認はしているだろうか。

その問いを持って職場を見渡すと、これまで見えていなかった誰かの働きや支えに、気づくことができるかもしれません。

Written by 近藤和歌子

Wingood代表
組織の中にある、まだ言葉になっていない違和感に耳を澄ませる。
対話と関係性を起点に、人材開発・組織開発に携わる。
現場に流れる空気や、小さな変化を大切にしている。