「効率化」で、失っているものはありませんか?
効率化を、ずっと追い求めてきました。
無駄な時間を削り、業務の流れを整え、成果に直結しない時間は、できる限り減らす。
それが私の仕事であり、得意なことでもありました。
そして私にとって、雑談はその「無駄」の代表格でした。
チームをまとめる立場になる前から、ランチは一人でさっと行き、さっと帰る。それが当たり前でした。
同僚に誘われて一緒に行くことがあっても、みんなの雑談をただ聞いているだけ。
「こんな話をしていても、前には進めない」
心の中では、そんなふうに思っていました。
リーダーになってからも、しばらくはその姿勢を変えませんでした。
必要なことを伝え、仕事を前に進める。
それがリーダーの役割であり、正しいリーダーシップだと思っていたのです。
ところが、ある時、ふと肩の力が抜けました。
何がきっかけだったのか、自分でもよく分かりません。
ただ、その日はいつもと違い、輪の中の何気ない会話に加わってみたのです。
一瞬、みんなの表情が止まりました。
意外だったのでしょう。
いつも一線を引いていた私が、突然、雑談の輪に入ってきたのですから。
けれど、その空気はすぐにやわらぎました。
そして、そこから少しずつ何かが変わっていきました。
私を見るみんなの目が、それまでとは違うものになっていったのです。
さらに不思議なことに、私が出す方針への向き合い方まで変わっていきました。
それまでは「リーダーからの指示」として受け止めていたものを、自分たちの目標として引き受けてくれるようになった。
そんな感覚がありました。
変わったのは、みんなだけではありません。
私自身も変わりました。
以前なら興味を示さなかった話にも、一度、その人の立場に立って思いを巡らせてみる。
単なるグチに聞こえていた話も、その人の心情や背景に目を向けると、
「それは大変だったね」
という言葉が自然に出るようになりました。
こんなこともありました。
何か仕事をお願いするたびに、
「えー、これ大変」
と、まず否定的な言葉が返ってくる人がいました。
正直、私の中ではいつの間にか、
「めんどくさがりな人」
という印象ができ上がっていました。
ところが、雑談の中で、その人が家では家事をとても丁寧にこなし、家族のことを大切に考えていると知る機会がありました。
その話を聞いた時、はっとしました。
私は、その人のほんの一面だけを見て、「めんどくさがり」と決めつけていたのです。
仕事上の一場面だけでは、見えないものがある。
雑談の中では、普段の業務だけでは知ることのできない、その人らしさや価値観がふと見えることがあります。
そして気づいたのです。
一見、仕事とは関係のない会話の中で、私たちは相手を知り、相手もまた私を知っていく。
その小さな積み重ねが、思い込みを少しずつ溶かし、人と人との距離を縮めていたのだと。
この経験は、私自身のビジネスコミュニケーションも変えました。
以前の私は、伝えるべきことを、まっすぐ伝えることを大切にしていました。
けれど今は、必要なことを伝える前後に、相手への労いや感謝を言葉にすることを意識しています。
伝えている内容そのものは同じでも、相手の受け止め方がまったく違うことがあるからです。
そして、この伝え方は私自身だけの変化ではありません。
これまで、さまざまな経営者や管理職の方にもお伝えしてきました。
すると、
「部下との距離が近づいた」
「以前より話をしてくれるようになった」
「関係性が良くなった」
そんな報告をいただくことが何度もありました。
同じ言葉でも、相手との間にどのような関係性があるのかによって、伝わり方は変わる。
私はそのことを、何度も実感してきました。
ただし、私は「雑談は多ければ多いほどいい」と思っているわけではありません。
さまざまな企業のミーティングに参加する中で、逆の光景も何度も見てきました。
決めるべきことを決めないまま、話がどんどん横道にそれていく。
何を、いつまでに、どうするのか。
そして、それをしなければどうなるのか。
その目的も目標も、誰の目にもはっきり見えていない。
そうなると、雑談だけをなくしても、会議そのものが「目的のない雑談」になってしまいます。
だからこそ、管理職や経営幹部に伝えたいことがあります。
雑談を締め出すことが、効率化ではありません。
そして、守るべきなのは「雑談そのもの」でもありません。
効率化の中で削ってはいけないものは、雑談そのものではなく、関係性を育てるための「余白」なのだと思います。
大切なのは、組織が向かう目的と目標を、誰もが迷わず見える状態にしておくこと。
向かう先が明確だからこそ、その途中にある雑談や何気ない会話が、人と人をつなぎ、チームの結束を強める「余白」になり得ます。
そこには、業務上のやり取りだけでは見えない、その人らしさや価値観に触れる時間があります。
その小さな理解の積み重ねが、信頼や協力の土台になっていくのではないでしょうか。
効率化を進めることは、もちろん大切です。
けれど、効率化を進める中で、私たちは何を「無駄」として削っているのでしょう。
その中に、チームが一つになるために必要な「余白」まで、含まれてはいないでしょうか。