INSIGHT 25

「効率化」で、失っているものはありませんか?

「効率化」で、失っているものはありませんか?

効率化を、ずっと追い求めてきました。

無駄な時間を削り、業務の流れを整え、成果に直結しない時間は、できる限り減らす。

それが私の仕事であり、得意なことでもありました。

そして私にとって、雑談はその「無駄」の代表格でした。

チームをまとめる立場になる前から、ランチは一人でさっと行き、さっと帰る。それが当たり前でした。

同僚に誘われて一緒に行くことがあっても、みんなの雑談をただ聞いているだけ。

「こんな話をしていても、前には進めない」

心の中では、そんなふうに思っていました。

リーダーになってからも、しばらくはその姿勢を変えませんでした。

必要なことを伝え、仕事を前に進める。

それがリーダーの役割であり、正しいリーダーシップだと思っていたのです。

ところが、ある時、ふと肩の力が抜けました。

何がきっかけだったのか、自分でもよく分かりません。

ただ、その日はいつもと違い、輪の中の何気ない会話に加わってみたのです。

一瞬、みんなの表情が止まりました。

意外だったのでしょう。

いつも一線を引いていた私が、突然、雑談の輪に入ってきたのですから。

けれど、その空気はすぐにやわらぎました。

そして、そこから少しずつ何かが変わっていきました。

私を見るみんなの目が、それまでとは違うものになっていったのです。

さらに不思議なことに、私が出す方針への向き合い方まで変わっていきました。

それまでは「リーダーからの指示」として受け止めていたものを、自分たちの目標として引き受けてくれるようになった。

そんな感覚がありました。

変わったのは、みんなだけではありません。

私自身も変わりました。

以前なら興味を示さなかった話にも、一度、その人の立場に立って思いを巡らせてみる。

単なるグチに聞こえていた話も、その人の心情や背景に目を向けると、

「それは大変だったね」

という言葉が自然に出るようになりました。

こんなこともありました。

何か仕事をお願いするたびに、

「えー、これ大変」

と、まず否定的な言葉が返ってくる人がいました。

正直、私の中ではいつの間にか、

「めんどくさがりな人」

という印象ができ上がっていました。

ところが、雑談の中で、その人が家では家事をとても丁寧にこなし、家族のことを大切に考えていると知る機会がありました。

その話を聞いた時、はっとしました。

私は、その人のほんの一面だけを見て、「めんどくさがり」と決めつけていたのです。

仕事上の一場面だけでは、見えないものがある。

雑談の中では、普段の業務だけでは知ることのできない、その人らしさや価値観がふと見えることがあります。

そして気づいたのです。

一見、仕事とは関係のない会話の中で、私たちは相手を知り、相手もまた私を知っていく。

その小さな積み重ねが、思い込みを少しずつ溶かし、人と人との距離を縮めていたのだと。

この経験は、私自身のビジネスコミュニケーションも変えました。

以前の私は、伝えるべきことを、まっすぐ伝えることを大切にしていました。

けれど今は、必要なことを伝える前後に、相手への労いや感謝を言葉にすることを意識しています。

伝えている内容そのものは同じでも、相手の受け止め方がまったく違うことがあるからです。

そして、この伝え方は私自身だけの変化ではありません。

これまで、さまざまな経営者や管理職の方にもお伝えしてきました。

すると、

「部下との距離が近づいた」

「以前より話をしてくれるようになった」

「関係性が良くなった」

そんな報告をいただくことが何度もありました。

同じ言葉でも、相手との間にどのような関係性があるのかによって、伝わり方は変わる。

私はそのことを、何度も実感してきました。

ただし、私は「雑談は多ければ多いほどいい」と思っているわけではありません。

さまざまな企業のミーティングに参加する中で、逆の光景も何度も見てきました。

決めるべきことを決めないまま、話がどんどん横道にそれていく。

何を、いつまでに、どうするのか。

そして、それをしなければどうなるのか。

その目的も目標も、誰の目にもはっきり見えていない。

そうなると、雑談だけをなくしても、会議そのものが「目的のない雑談」になってしまいます。

だからこそ、管理職や経営幹部に伝えたいことがあります。

雑談を締め出すことが、効率化ではありません。

そして、守るべきなのは「雑談そのもの」でもありません。

効率化の中で削ってはいけないものは、雑談そのものではなく、関係性を育てるための「余白」なのだと思います。

大切なのは、組織が向かう目的と目標を、誰もが迷わず見える状態にしておくこと。

向かう先が明確だからこそ、その途中にある雑談や何気ない会話が、人と人をつなぎ、チームの結束を強める「余白」になり得ます。

そこには、業務上のやり取りだけでは見えない、その人らしさや価値観に触れる時間があります。

その小さな理解の積み重ねが、信頼や協力の土台になっていくのではないでしょうか。

効率化を進めることは、もちろん大切です。

けれど、効率化を進める中で、私たちは何を「無駄」として削っているのでしょう。

その中に、チームが一つになるために必要な「余白」まで、含まれてはいないでしょうか。

Written by 近藤和歌子

Wingood代表
組織の中にある、まだ言葉になっていない違和感に耳を澄ませる。
対話と関係性を起点に、人材開発・組織開発に携わる。
現場に流れる空気や、小さな変化を大切にしている。